沢木耕太郎

旅は、やはり、どこか人生と似ているのかもしれない。ある時までは人生にすべてが可能だと思っている。だが、やがて、できることとできないことがあるのを知るようになる。同じように、旅も、ある時まではどこにでも行かれると思っている。少なくとも、行かれないところがあるなどとは思わない。しかし、歳を取るにつれて、行かれない土地というものがあることを知るようになる。そして、ある時、微かな悔恨とともに認めざるを得なくなるのだ。自分はあの土地にはついに行くことがないだろうということを。(沢木耕太郎「懐かしむには早すぎる」、チェーン・スモーキング、新潮文庫